「波動が共鳴して云々」の珍理論
量子力学では物質の構成要素は粒子でもあり波でもある、は正しい
(厳密にはこの言い回しはmisleadingですが、細かいことは無視します)。
その意味で、物体に何らかの波動を作用させて物体の状態を変化させる、ということは、一般的にはありえる事です。
マイクロ波を照射して、食品中の水分子の回転状態(量子力学的概念としての)を励起し(水温を上げると共に摩擦を起こさせ)、食品を加熱する電子レンジは好例です。
この場合の「波動」はもちろんマイクロ波。過不足無し、明瞭です。
まず、この「波動」が何であるのか、マイクロ波なのか赤外線なのか可視光なのか、これら電磁波ではなく他のものだとしたらそれは何なのか、明確に定義されず、単に「波動」とのみうたっている議論は眉唾だと思ってかかった方が得策です。
それは科学的根拠のない、単なる量子力学のイメージに乗っかった似非科学の可能性が高いです。
更に以下は私の実体験。
宝石を体の不調な個所に当てると、不調が治る、と。
で、それは物理学によれば素粒子というのが弦でできていて、人間の身体も当然弦でできている。
宝石からの波動が弦の振動に作用した結果なのだ、と。
素粒子が弦であるとは、超弦理論と呼ばれる理論で与えられる描像です。
超弦という一種のひものようなものでこの世の素粒子を記述すると、現代素粒子物理学が抱える多くの問題が解決されると期待されている理論です。
素粒子の種類の違いは弦の振動様式の違いによる、とされます。
ところでこの超弦理論、今の段階では仮説にとどまります。
仮説である、とはその正しさはまだ実験的に証明されていない、という意味です。
仮説を仮説と明示せず説明に使う手法はフェアとは言えません。
がしかし、それより重大な問題がここにはあります。
波動の例として電磁波を取り挙げます。
物質系は電磁エネルギーを吸収しますが、その為には物質系の固有周波数と電磁エネルギーが「共鳴」、即ち同調しなければなりません。
極めて大雑把に言うと、分子の回転運動はマイクロ波に共鳴します。
つまりマイクロ波を照射することで、分子の回転が促進されます。
分子が伸びたり縮んだり、曲がったりまっすぐになったりという振動運動は、赤外線に共鳴します。
マイクロ波より高エネルギー。
分子には電子状態と言って、分子内に捉われている電子のその様々な束縛のされ方に対応する、量子力学で記述される独特の状態があるのですが、これは我々が目で見る光、可視光に共鳴します。
つまり、可視光を吸収して、分子の中の電子はその存在様式が変化します。
赤外線よりさらに高エネルギー。
このように物質と電磁波、即ち外部からのエネルギーには共鳴し合う関係があり、共鳴しなければ、エネルギーのやり取りは生じません。例えばマイクロ波を照射しても、電子状態は変化しません。
では、先ほどの弦の振動は何に共鳴するのでしょう。
それはエネルギーレベルが高すぎて、この地上に共鳴するものは存在しない、が正解です。
世界で最も高いエネルギーを生成する実験装置、スイスのLHCから見ても、その1000兆倍程度も高いエネルギーでないと、弦の振動を変化させることはできないのです。
マイクロ波で電子状態を変える事より、もっともっとはるかに無謀なことなのです。
更に、弦の振動が変わるということは、物質の種類が変わることに他なりません。
万が一宝石がそばにあるだけで、アップクォークがダウンクォークにでも変化するなら、それは原子核内で陽子が中性子に変化することになり、世の中あっと言う間に不安定核種の放射性物質だらけとなり、とても生物が住める地球が誕生する暇がありません。
「手で宝石をかざすと宝石から何がしかのエネルギーが出て、弦に共鳴して」、などといかにも科学的に説明したような体ですがとんでもない。
このように、明確な根拠を持って考えることが「科学的思考」です。
感覚的に「分かった様な感じ」が一番怖いのです。
そしてこの「分かった感じ」を与えて納得させる論調が誠に多いのも残念ながら事実なのです。
量子力学を振りかざして来たら、今言うその「エネルギー」とは具体的に何か、「波動」とは何か、何が何に「共鳴」しているのか。「共鳴条件」を満たしているのか。
突っ込んで考える思考の癖を身につけたいものです。
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