Beyond Visibility

不思議現象を「根拠を持って」科学する

今の「思い」で過去も未来も変えられる?

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「記憶の想起、未来の想像は時間軸上を自由に行き来した結果」は本当?


反粒子

粒子に対し、質量などの属性が同じで反対の電荷を持つ。

 

電子の反粒子は反電子、とは呼ばずなぜか伝統的に「陽電子」と名付けられています。電子とそっくりですが、電荷は電子がマイナスなのに対し陽電子はプラス。プラスの電荷を持つ電子だから「陽」電子、なのですね。

 

粒子と反粒子は合流して光に転化する性質があります。光になると同時に衝突した粒子・反粒子連合は消滅します。対消滅と呼ばれる現象です。

 

最もシンプルな原子である水素は、原子核がたった一個の陽子であり(中性子は無し)、その周りを一個の電子が周回しています。プラスとマイナスの電荷が一個ずつなので、全体として中性が保たれているというわけ。

 

これに対し両者を共にその反粒子に変えたもの、すなわち反陽子の周りを陽電子が周回する系も考えられ、実際に作り出すこともできます。これは「反水素」ですね。これも反陽子電荷がマイナスで陽電子がプラスなので、全体としては中性です。

 

このような反粒子ですが、理論的には「反粒子=時間を逆行する粒子」として記述できることが知られています。つまりミクロの世界では時間軸は対称であり、(我々にとっての)過去から未来に進む粒子がある一方で、それとは逆に時間軸上を進む粒子、つまり未来から過去に進む粒子も存在する、と。後者が我々の目には反粒子として捉えられるのです。

 

では時間軸を逆行する視点から先ほどの対消滅を見るとどうなるかと言うと、最初は光だけがあり、それがある時点で突然粒子と反粒子の対に変化する、となります。どちらの描像も理論的にはイーブン。どちらでも良いのです。

 

我々にとって時間の進み方は過去から未来への一方通行でその逆を体験することはないのですが、それは我々が巨視的な世界で生きているからで、ミクロの世界、量子力学が支配する世界ではその常識は通用しないのです。

 

宇宙が誕生した直後には粒子と反粒子は共に存在しましたが、その後対消滅してほとんどが光に転化しました。ところが(その理由は今のところ分かっていませんが)わずかに粒子が反粒子より多かったために対消滅せずに残った粒子が存在し、その余り物で今の宇宙の様々な構造が出来上がったと考えられます。つまり反粒子は意図して高エネルギー実験で作り出さない限り、自然には存在しないのです。

 

我々の脳は、少なくとも微視的視点では、量子力学に従う系であることは疑う余地はありません。しかし上述のような理由で、その中でなんらかの反粒子が存在し、役割を果たしているとは考えられません。ミクロの世界で時間軸が対称であることを、我々が過去のことを思い出したり未来のことを思い描いたりすることと結びつける議論がありますが、両者は全く無関係です。記憶の想起や未来の想像と反粒子とは、なんら関係はありません。ましてや現在の思考のありようによって過去や未来が変えられる、などという議論は暴論であり、少なくともそこに物理学的根拠はありません。

 

量子力学的・物理学的根拠があるように見せかける議論にはご注意を。

 

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