Beyond Visibility

不思議現象を「根拠を持って」科学する

多次元宇宙4

「非科学的」というレッテル貼りは、多かれ少なかれ誰でも耳にした事があるだろう。「人工衛星の飛ぶ時代に幽霊なんて」の類の表現は、割とすんなり口にされるしさほど問題視する向きもない。この短いセンテンスの中に、「科学」と「非科学」の対比が描出されている。言うまでもなく人工衛星はここでは科学的所産の代表であり、幽霊が非科学の代表である。この科学技術の進んだ時代に幽霊など信じられるものか、的な決意表明の他に、場合によっては幽霊の存在を信じる者への侮蔑の意思も込められているだろうか。要するに現代科学の力の賛美である。科学の発展とその成果の上に今日の我々の生活があるのは言うまでもないことである。都心に住む家族が週末は奥多摩へドライブ、なんてことは明治時代には考えられなかったことだろう。携帯端末があればどこでも外出先で世界中の出来事をほぼリアルタイムに知る事ができ、検索機能を使えばとっさの知りたい情報もすぐに調べる事ができる。これは情報に対し完全に受け身なテレビやラジオ等のメディアとも異なり、ほんの十数年前までは一般的な事ではなかった。日常生活に直接影響しなくとも、小惑星の試料を持ち帰る「はやぶさ」プロジェクトのニュースが、科学技術の力を私たちにまざまざと見せつけてくれたことは記憶に新しい。科学研究による知識の発展と技術の革新が生活に変化をもたらし、それにより私たちの世界観も時代ごとに変貌を遂げている。稲妻はその昔神の仕業とされ、今風に言えば立派な超常現象の一つだった。現代では大気の運動に伴い地上と上空で生ずる電位差によって引き起こされる放電現象として理解されている。火の玉、こちらは亡くなった人の魂が現れたものであるとかないとか。現在ではリンが何らかの理由で自然発火し空気中で燃えているものだとか、あるいはマイクロ波の共鳴によるプラズマ現象など複数の説明が与えられている。歴史的には様々な超常現象、迷信の類が科学的見地(自然科学のみならず、心理学や精神神経学等も含む)からの解釈を得てきた過程が確かにある。奈良・平安時代に都で伝染病が流行るとそれへの対策として国家事業として仏像が作成されたり祈祷が行われたりした。現代に生きる私たちの感覚ではそれと同様の事が現代社会で再現される事を想像するのは難しいが、当時は大まじめである。万物に神が宿る八百万の神について、私たちは知識としてそのような考え方の存在を知ってはいるが、古代の人々にとっては私たちよりもはるかにリアルにこれを捉え、現実に存在するものとして考えていたはずである。
              では心霊現象についてはどうだろう?ひとくちに心霊現象と言っても、霊の目撃に始まり、ラップ音、憑依、ポルターガイスト、念写などなど多種多様である。目撃談については直接もしくはTVやインターネット上などで聞いた事がある人は多いのではないだろうか。それに対する感想も様々だろう。霊の存在を前提としながら、個別に真偽を検討する人、存在を認めずいたずらや誤認だと断ずる人、霊の存在についての判断を保留しつつ受け止める人。いわゆる心霊現象・超常現象についての科学的側面からの検討もなされており、注目すべき結果も出ているが、ここで個別の研究結果について紹介することはしない。こういった研究は大いに進んでいって良いし、そうであるべきだと思う。霊的現象の体験については、虚言の他に自己暗示や錯覚、幻覚、誤認などの可能性が指摘されている。体験談として語られているものは、既に体験自体が過去形として語られているもので、リアルタイムにそれが錯覚であるか否かを判定することはかなわぬが、例えばお花畑や水辺で亡くなった先祖に出会うなど、臨死体験においてその多くに共通する特徴とよく似たビジョンを、脳のある部分を電気的に刺激することで得ることができるという研究がある。複数の人が同じ現象を同時に目の当たりにした、というものに対しては、集団催眠による説明が付与されることがある。また地磁気とは別に局所的に存在する磁場の脳への影響に伴う幻覚や幻聴の発現も指摘されている。物が動いたり音をたてたりするポルターガイストやラップ音などの現象もいたずらや錯覚、土地や建物の異常、低周波音波などがその要因として挙げられてる。しかし現状では、あまたある心霊現象のその全てが自然科学の言葉で説明し尽くされている、と断言されるには至っていない、と言える。「し尽くされた」と万人納得するのは困難としても、「かなりの程度分かってきた」の「かなり」にすら抵抗ある人は未だ多いのではないだろうか。しかしいずれにせよ、先に挙げた稲光の例の如く幽霊もいずれは科学的に、無いとする方向で解決されるであろうという科学への期待が、先の人工衛星云々の文言には込められているのだろう。(つづく)
 
 
 
の中のVolume 5, Number 10, October 2013
"Fermion field in the vicinity of a brane"