Beyond Visibility

不思議現象を「根拠を持って」科学する

多次元宇宙12

              多次元宇宙の研究そのものは、遅くとも相対性理論電磁気学との融合を目指した前世紀初頭の研究に端を発したのであり、その後1世紀が経過しているとは言うものの、実際に観測の可能性が議題に上ったのはつい最近のことである。理論的に存在の可能性がある、と指摘されることと、存在が実証されることとでは話のレベルが全く違う。実際、例えば20世紀初頭の一般相対性理論により理論的にはブラックホールの存在は示すことができていたが、この理論の発表以降半世紀程の間、多くの物理学者はこれを純粋に理論上の産物と考え、宇宙に実際に存在すると考える者はほとんどいなかった。現在では観測的にもブラックホールの存在を示す結果は多く得られており、その存在を疑う者はほとんどいない。弦理論の帰結としてこの宇宙が多次元であるとされていても、その弦理論はというと、現状では標準理論として受け入れられる段階からは程遠いといわねばならない。余剰次元空間が低エネルギーで見えなくなる機構(上述のコンパクト化のような)を説明する必要があること、弦理論の持つエネルギースケールと低エネルギー素粒子現象を扱う標準理論のエネルギースケールとの16桁にも及ぶ大きな隔たりの理論的解決、宇宙の加速膨張や初期のインフレーションの説明など、解決すべき問題は多い。そして、より根本的な問題は、弦理論に対する指導原理が判っていないという点である。一方でこれが相対性理論と現行標準理論を統合する次世代標準理論としての可能性を秘めた理論として最右翼に位置していることは事実であり、実験結果として多次元性が示されるのであれば重要なパラダイムシフトとなることは疑いない。その時新たな多次元物理理論の帰結としてどのような理論的予測が得られるのか。想像するのも困難だが、今の我々がいくら頭を悩ませてあれこれと推測したとしても、思いつかないような驚くべき姿を自然は見せてくれるに違いない。心霊現象とて予断は禁物だ。ブレーンワールドモデル研究者ランドールは新しい空間次元の導入を検討していることを身内に打ち明けた際、「霊的体験をする世界とか死後の世界のことだろう?」と問われ「そんなわけないでしょ」と返したという。現代物理学をかじる者の一人として、そう断言する気持ちは十分分かる。だが、そうでない可能性を敢えて指摘したい。
              ちょっと話は変わるが、地球外生命というものを想像してみたことはおありだろうか。火星や土星の衛星などにバクテリア的な生命体が存在する可能性は近年報じられている。ここではそれとは違い、高い知能を持つ宇宙人の探索についてみてみよう。この広い宇宙のどこかに、我々人類以外の知的生命が存在し、独自の文明を持ち、社会を形成し科学技術を発展させているかもしれない。宇宙はこれだけ広いのだから、その中に知的生命が私たち地球に住む人類だけと考える方がおかしい、きっといるはずだ、との思いを持つ人は多い。実際にそのような考えで探索に乗り出している研究者もいる。地球外知的生命の探索、それは現代科学界において実際に進められている一つの研究テーマなのである。ドレイク方程式なるものをご存じだろうか。この宇宙に存在する、私たち地球人と通信可能な技術を持った知的生命の存在する惑星の数を割り出す数式である。この方程式の中には恒星が惑星系を形成する確率、惑星に生命が発生する確率、それが知的生命体にまで進化する確率、通信技術を発達させる確率などのファクタが含まれており、多くの学者がそれぞれのファクタに適当と思われる値を仮定した上での計算を行い、様々な結果を得ている。概括すれば、相当程度に楽観的な、すなわち地球外知的生命が存在して通信技術を養い、十分長い期間存続できる可能性に最大限譲歩した値をそれぞれのファクタに仮定したとしても、光速の壁を越えることはできない、というのが結論のようである。要するにそのような生命体が実在し、他の惑星人との交信を希望したとしても、この広い宇宙の中でのそのような生命体の存在する惑星の分布密度が低すぎて(つまり一番近いお隣さんですらも余りに遠すぎて)、交信のやり取りにわれわれ人類の寿命をはるかに超える年数がかかってしまうのである。つまるところこの宇宙が広すぎる、という訳だ。もちろん惑星分布は均等ではないため、たまたま思ったより近いところに交信できる生命が存在するということはあり得るが、この確率論に立つ限りは、電話やEメールのごとくはおろか、片道数年程度以内でリアルタイムな、情報の相互通行が実現する可能性は、残念ながらどうやらなさそうである。しかしそうした中でも、地球外知的生命探査(SETI)と呼ばれる、宇宙からやって来る電波や可視光を解析し、その中に自然現象由来ではなく人工的に発生させられたと思われるものを探し出すプロジェクトがあり、90年代以降現在も進行中である。残念ながら今日までに、人工性が強く疑われ追跡調査が進行中というような事案はないが、可能性を信じて我々人類以外の知的生命を宇宙の中に探る努力は、現在進行形のれっきとした現代科学の議題なのである。(つづく)
 
 
の中のVolume 5, Number 10, October 2013
"Fermion field in the vicinity of a brane"