Beyond Visibility

不思議現象を「根拠を持って」科学する

多次元宇宙17

              都市伝説を扱うTV番組を例に挙げよう。この番組ではお笑い芸人やタレントが、「信じるか信じないかはあなた次第」の決まり文句の下、とにかく人が聞いて「おーっ」と驚くような意外性のある一見理路整然としたお話が語られていく(中には明らかなネタ話もあるが)。語られる内容が真実かどうかの判断を聞き手に一任する形態をとるが、様々な形で真実性を強く疑わせる趣向が凝らされている点に特徴がある番組である。中でも都市伝説テラーとして際立つ存在のS氏の話術は、良くも悪くも人を惹きつける麻薬にちりばめられている。まず、マヤ文明がトウモロコシ栽培をしていた事実に、トウモロコシが地球外からやってきた植物であるとする自説をリンクし、マヤ文明が宇宙人と交流していたと説く。曰く、「トウモロコシは地球外植物である。なぜならトウモロコシは原産地不明であり、古い文献によると稲だけはマヤにあり、ある時から突如実がなるようになった。それに加えてマヤでは赤ん坊の時に頭の形状を矯正してトウモロコシの形(頭頂部が尖った形状、コーンヘッド)にする風習がある。その形状は宇宙人の頭部を思わせる形状をしているので、このことは宇宙人とのコンタクトを意味する。コーンヘッドの風習もトウモロコシが地球外植物であることを意味している。」トウモロコシの祖先種は明確でなく、掛け合わせについても諸説あるが、少なくとも南北アメリカ大陸でマヤ文明発生のはるか以前から栽培されていたのは事実である。マヤ文明下その土地である時突然実がなったわけではない。そもそも実がなかったならそれ以前はどうやって繁殖していたというのか。仮にある時点で突然実の形が大きく変わり、今我々におなじみのトウモロコシの形になったのだとしても、そのことがトウモロコシが地球外からやって来たことの裏付けになるはずもない。コーンヘッドの風習はそれがトウモロコシの実の形を模したものかどうか確証は無く、仮にそうだとしても自らの生存の基礎となる主食もしくはそれを与えてくれる神への畏敬の念から行っているという推測は出来ようが、宇宙人の頭に似ているから宇宙人とのコンタクトを示す根拠である、との結論付けに妥当性は見いだせず首肯するべくもない。現状その地球上での存在に大いに疑義のある宇宙人、その頭の形状などというものに定説などあるわけもない。このように素直に文脈をたどれば矛盾に満ちている言い分でも、この番組を見ていると流れでなんだか正しい事を言っているような雰囲気に包まれてしまうのはなぜだろう。「マヤ文明はウィルスによって滅び、マヤ人の一部は地下に隠れて生き延びた」などと主張した後続く彼の主張は以下の如くである:「巷間で噂される2012年地球滅亡説の内実は、マヤ歴によれば2012年で一つの周期が終わり、2013年から新時代が始まる、ということである。それ以後は我々とは生殖過程の異なる新しい遺伝子を持った世代が生まれ、新世界秩序が始まる。人類は生か死かのふるいにかけられるが、そのふるいの謎はブラジルにある。ブラジルに保存されている世界最大の隕石を、アインシュタインが訪ねたが、その際宇宙エネルギーを分析したのかもしれない。この隕石はブラジルと宇宙とのつながりを示す。各国がロケットを打ち上げており、宇宙からウィルスが来たとの名目で誰かがウィルスをブラジルで2014年、2016年と立て続けに予定されているサッカーのワールドカップやオリンピックで会場に撒く。このような人類の未来図をはるか昔から知っていて、陰でうごめき、全ての真実を握っていると言われるのがフリーメーソン。その証拠に、フリーメーソンのシンボルマークが描かれているアメリ1ドル札の、”one”の文字は額面1ドルの意味の他に、アメリカとフリーメーソンは一つ、そして世界統一をも意味していると言われている。その世界統一とは、人類再生の事なのか、それとも人類救済の手立てを握っているということなのか?」まともな感覚では読むに堪えない文言の羅列だというのが筆者の感想であるがどうであろう。このように改めて書き下し書き言葉として読んでみれば、その主張の不自然さ、まやかし、脈絡のいい加減さははっきりとあぶりだされる。いや、それなりの根拠を持ってそれぞれの主張がなされるのであれば、意外性の大きさだけで一蹴するのは慎むべきかもしれないが、彼の根拠と主張するものがどだい至極受け入れ困難なものばかりである。仮にマヤ歴が2012年に人類に降りかかる大淘汰を予言していたとしても、ブラジルのくだりで出てくる「宇宙のエネルギー」とそれとはどう関係するのか。宇宙人と交流していたマヤ文明を滅ぼしたウィルスが宇宙由来だとでも言うのだろうか。世界最大の隕石がブラジルにあるのが事実として、だからことさらブラジルが宇宙とつながっている等の論理は稚拙にもほどがあり、アインシュタインが訪れたのも、別に「宇宙エネルギーを分析しに来た」訳ではあるまい。ここはさすがにS氏も断定は避けているが、アインシュタインの名を出し、その威光を借りて都合よく自説を補強しているだけである。これが彼の話法の麻薬の一つである。ウィルスを誰かが撒いて人類が淘汰される未来を知っているのがフリーメーソンとしているが、肝心のウィルスを撒く主体がそもそも誰なのか最後まではっきり明示されない。フリーメーソンが未来を知っている証拠として挙げているのが、米1ドル札のくだりであるが、それが証拠などになりえないことは一目瞭然である。(つづく)
 
 
の中のVolume 5, Number 10, October 2013
"Fermion field in the vicinity of a brane"